魔導の夜明け



夜になると、人は体を休ませる為に眠りにつく。
でもそれは下界に住む人間が行なう事で、魔界・冥界に住む者には不必要なもの。

そう。魔王の下僕と呼ばれし我らにも全く無縁なものなのだ ――



『眠る』という行為が不必要だというのは、今の力を授かった時と共に教え込まれた掟の様なものである。
クリストフは、そんな昔の事を考えながらベッドに横たわり、天井を仰いでいた。
彼の横ではセトラが穏やかな寝息を立てながら眠っている。
セトラは掟があっても、「僕らだって疲れる時があるから休むでしょ?」と言ってきかない。
不満があれば頬を膨らませて、まるで人間の子供の様な態度を取る。
自分で解っていても、彼は掟に反して普段から生活しているのだ。
「たしかに、お前の言う事も間違ってはいないな…」
眠っているセトラの髪を優しく撫で、ぽつりと呟くと、応えるかのように薄く眼を開いた。


「ん…クリストフ。おはよ…」
先程まで自分の頭を撫でていた手を口元に引き寄せると、軽くキスをした。
おい、と行為を止めさせようとしても、セトラは舌を這わせ、全体をなぞる様に舐め回す。
掌、甲、指先と、気の済むまでしてから、ようやく手を放すと体を起こし、両腕をクリストフの首に絡みつかせ、 潤んだ瞳で目の前の男を見つめた。
「…何故俺に拘る?」
口を噤み、視線を合わせたままセトラにだけ聴こえる様に囁く。
「クリストフは僕の事、嫌いなの…?」
顔をぐい、と近づけて、息がかかる位まで引き寄せると、クリストフからの返事を待つ前に唇を重ねる。
触れるだけでは物足りず、舌を入れ、口腔内を探る様にゆっくりと動く。
クリストフの舌に少し触れると、きつく抱きつき、小さな舌でそれを絡め取ろうとする。
「……んっ。ふ…ぅっ…」
鼻にかかる甘い声をあげると、クリストフはセトラの背中を強く抱き締め、深く口付ける様に促す。
強く抱かれた事で、肌と肌が擦れ合い少しずつ熱を帯びてゆく。
舌と舌が触れ、絡み合い、部屋中にぴちゃぴちゃと淫猥な音を響かせる。
唇が離れると二人の間に、一筋の糸が垂れた。
セトラの頭を撫でてやると、両腕をぎゅっと掴み、甘える様な瞳でクリストフを見つめている。
「これが、俺の出す答え だろ?」
口元に少し笑みを浮かべ、セトラの前髪を上げると、額に口付けた。
「…えっ?」
突然の出来事に、動揺を隠せないセトラは掴んでいた手を離し、反動で後によろけてしまい、 そのままクリストフに押し倒される形になってしまった。

両肩を押さえつけセトラを見下ろす形になると、そのままゆっくりとセトラに覆い被さる様に体を合わせる。
背中と後頭部に腕を回し、自分の胸元に寄せると優しく抱き締めた。
「こうしていれば安心するんだろ? だから俺の傍から離れるな…」
「……うん。だから…」
『今度はクリストフからして…』と囁くと、先程セトラがした様に深く口付ける。
一瞬痺れる様な感覚に襲われるものの、応じる様にセトラも小さな舌を伸ばして絡みついてきた。
唇を離すと、その余韻に浸る様に、ふぅ、と息をつくと、胸元に頬をすり寄せ、セトラは再び眠りに落ちた。
そんなセトラの頭を優しく撫で、抱き寄せると、クリストフも瞼を閉じ、体を休める事にした。
トクントクンと静かに聴こえるセトラの心音が、妙に心地良く感じた ――



Fin



話を書いていったらセトラの方がどんどん積極的な子になってしまいました。
あ、でもセトラは襲い受けなイメージが植えついているので、私は問題無いですが。
書いてて嫌という位チュゥな関係ってのもアレですけど、セトラは甘え子だと感じてるのは私だけかしら?
無い文才を絞って書いたのですが、どうですかね…。
これから先の続きとかも書きたかったですが、次回あれば書きたいです。
もう次の内容も出来てるので、またクリセトで書くかと。今回のはセトクリセトっぽくなってしまった(^^;

2005.10.25.

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