「…ん?」
ふと気配を感じ、クリストフは読んでいた本から目を離し、顔を上げた。
ここ数日、セトラの姿が見当たらない。いつもだったら自ら部屋に来て、ちゃっかりベッドに転がり込んでいるというのに。 最近はそれが全く無いのだ。
いてもたってもいられなくなり、思い切ってセトラの部屋に向かい、扉の前に立つ。
「入るぞ」
ノックをしたものの返事は無い。ドアノブを回し部屋に入ると、ベッドに潜ったままのセトラの頭が見えた。
『どうしたんだ』と問うと、もぞもぞと顔を見せた。頬は紅潮し、瞳は焦点が定まらぬまま潤んでいる。
「……クリストフ?」
すぐ傍にいるであろう者の名を呼ぶと、それっきり黙ってしまった。息があがり、寒さで体が少し震えているのが見て取れる。
まさかと不安になりセトラの額に手を当てると、嫌な予感は的中した。
「馬鹿野郎っ!!お前、熱あるじゃねぇか」
その声にセトラは目を瞑り、ビクリと身を竦める。
恐る恐る目を開けると、怒る所か心配そうに自分を見下ろしていた。
くるりと背を向け、クリストフは無言のまま部屋の一角に設置されたキッチンへ向かうと、何やら作り始めた。 カチャカチャと無機質な食器類の音が辺りに響く。
戻ってくるまでの間、セトラは不安を抱いたままベッドに潜っていた。
また心配かけて怒らせて。本当だったらもっと早く伝えるべきだった ――と。
誰よりも自分の事を気遣ってくれるのは彼だけなのに…。


「おい、大丈夫か?」
クリストフの声にハッと我に返ると、自分の顔を不安そうに覗き込む彼の姿があった。
首をふるふると横に振り、にこりと笑ってみせる。
片手には食器の乗ったトレイを持ち、もう片方には薬の入った袋を持って立っていた。
トン、と目の前にトレイが差し出される。器には粒々の浮いた黄味がかった物質が入っている。
「やっぱ、治さないとダメ?」
「ちゃんと食べないと治らないだろ?それに…」
『いつもの生活に戻りたくないのか?』と意地悪そうに言い放つと、スプーンで掬いセトラの口元に運ぶ。
そのまま口にすると熱いと感じ、ふぅふぅと冷ましながら少しずつ食べ始めた。
「…おいしい」
セトラはスプーンをクリストフから奪う様に取ると、熱さを気にする事無く夢中で食べ続ける。
それに安心したのか、クリストフはセトラの様子を見てクスと笑った。
「何が可笑しいの?」
「…別に」
クリストフの様子を横目で見ながらも器の中を空にすると、満足した様でふぅ、と息をついた。
「ごちそうさま」
空の器を乗せたトレイをクリストフに手渡すと、再びベッドに潜ってしまった。
寒さは治まったのか、先程より生き生きとしているのは確かである。 しかしここで油断すると、前よりも悪化しかねない。
トレイを下げ、水の入ったコップを持って戻ると、セトラに手渡して飲む様に促す。
しかし両手でコップを持ったまま、いやいやと首を振り、一向に飲もうとしない。
普段甘い物は好んで口にするくせに、薬ともなるとまるっきり逆になってしまう。セトラの悪い癖だ。
「仕方ねぇな…」
クリストフはセトラからコップを奪うと、代わりに解熱剤をぽん、と口の中に入れた。
口の中に広がる苦味に必死に堪えるものの、それを抑えるかの様にクリストフの唇が触れた。
次の瞬間、口の中に冷たい液体が注がれ、動揺する間も無く飲み込んでしまった。
それがクリストフが自分に飲ませる為に口に含んだ水だとすぐに理解する。
唇が離れると、クリストフは口元に満足そうな笑みを浮かべていた。
「ちょっ…何するのさぁ」
「こうすりゃ飲めるだろ。何か不満でもあるか?」
ふいと顔を背け、赤くなった頬を擦ると、触れた部分がじわりと熱を帯びていた。
「……別にそういう訳じゃないけど…さ」
薬が効き始めてきたのか、セトラは小さく欠伸をすると、無意識のうちにクリストフの服の端を掴んでいた。
「セトラ…」
まだ熱の残る額を撫でながら、そのまま眠ろうとしているセトラに顔を近づけると、そっと唇に触れる。
深く唇を重ね、口腔内に舌を侵入させると、応える様にセトラも小さな舌を出して絡みついてきた。
痺れる様な甘い感覚に、撫でていた手をセトラの腰に回し抱き起こすと、細い両腕が首筋に絡みつく。
唇が離れると、何かをねだるようにセトラの大きな深紅の瞳が潤んでいた。


「クリストフ…」
「何だ?」
「今夜…一緒に…いてくれるかな…?」
「…本当に俺で…いいんだな?」
こくりと頷くと、まだ熱の篭る額をクリストフの額に合わせる。
その瞬間目と目が合い、自分の顔がセトラの大きな瞳に写っている様な気がした。
「セトラ」
両肩を掴み押し倒すと、まだ熱の冷めない頬に手を当てて、そっと唇を重ねる。
唇に残る僅かな温もりが愛しくて、背中に両腕を回し、温もりを求める様に深く口付けた。
少し息苦しいのか僅かに身を捩るのを感じ、唇を離して息の上がっているセトラの呼吸を整えてやる。
「熱の下がる方法…教えてやろうか?」
「それ…って」
セトラの上着に手をかけると、詰襟を緩め、その下に隠された首筋に直に触れる。
それだけでは物足りず、両手で着ている服を取り去るとセトラの細い首筋に舌を這わせた。
「…ぁ…っ」
空いている方の手で胸の突起を摘み、指先で転がすと鼻にかかる甘い声をあげる。
舌先を胸元まで移動させ、唇で挟んで隙間から舌を使い舐めあげると、体をビクリと反応させる。
「こうやって…して欲しかったんだろ?」
さも解っていたかの様に低く優しい声でセトラに囁くと、クリストフに視線を合わせ頷いた。
「……して」
「………」
「クリストフの……全てが欲しいんだ…」
「…解った」
もう一度セトラの胸元に口付けると腰を浮かせ、穿いていたズボンをゆっくりと脱がせると、クリストフもそれに合わせ 身に付けている服を脱ぎ去った。
鍛えられ引き締まった体をセトラの白く柔らかな肌に重ねる。
熱を帯びた体に肌が重なり、擦れる度にセトラが甘い声をあげ、クリストフを抱き締める。
クリストフはセトラを見つめたまま下腹部に手を滑らせると、まだ触れられていない部分に手を伸ばす。
「…あぁっ」
突然の感覚にセトラは驚きのあまり声をあげてしまう。
クリストフに触れられ、セトラ自身は少しずつ快感を得るように反応を示していく。
先端から透明な液が溢れ、セトラ自身を濡らしていく。
クリストフはその濡れた液を塗りつけ、セトラ自身を扱き始めた。
「…はぁっ…ぅん…ぁっ」
その行為に艶めいた声をあげ、もっと欲しいと腰を揺らし懇願する。
すでに扱かれ先端から滴っている液を掬い上げると、愛撫に反応している蕾に塗りつけ、ゆっくりと指を埋め込んでいく。
「んぁっ」
指が埋め込まれた事によって、セトラの体がビクリと跳ね上がる。
それにより内壁がきつく締められ、銜え込んでいるクリストフの指をさらに奥深くへ誘っていく。
「慣らさなきゃ…痛いだろう?」
深く銜え込まれた指でセトラの内壁を擦る度に、ビクビクと体を痙攣させ指を締め付ける。
蕾から指を引き抜くと、代わりに勃ち上がっているクリストフ自身をゆっくりと中に埋め込んだ。
「…力…抜いてろよ」
「……うん」
指を埋め込まれた時より強い感覚に、一瞬意識が飛びそうになるものの、自分を気遣ってくれている事に 安堵してクリストフ自身を受け入れた。
内部が少々きついのか、苦悶の色を浮かべるセトラを抱き締めると、そっと小さな手を背中に伸ばし抱き返してきた。
顔をずらし、セトラの大きな瞳の端に僅かながら零れた涙を拭うと、幸せそうな笑顔を浮かべる。
そんな彼がとても愛しくて、柔らかな唇にそっと口付ける。
「…クリス…トフ」
「……何だ?」
「もっと……していい…よ」
その言葉に満足したのか、セトラを抱き締めたまま腰を動かし始めた。
内壁を擦り、セトラの感じる所に触れ、激しく突き上げるとクリストフ自身を銜え込んでいる部分をさらにきつく締め上げる。
敏感な場所に触れられ、反応する様にセトラ自身も意志を持つ様に勃ち上がっていく。
肌を密着させているせいで、クリストフの腹部に勃ち上がっているセトラ自身が擦られ、さらなる刺激が全身を襲う。
セトラの最も感じ易い所を的確に突き上げ、少しずつ快楽を与えてやる。
応える様に内部のクリストフを締め付け、自分と同じ様に強い快感を与える。
「…ふっ…ぁ…クリス…トフ…ぅ」
何度も声をあげたせいで擦れた声がセトラの口から漏れる。
強く、それでいて自分を気遣うクリストフの行為に全身を快楽が支配し、セトラを絶頂へと導いていく。
「…っもぅ…ダメ…だよぉ…」
「……いいぜ…俺も…もぅ…」
身を震わせる感覚をクリストフも覚え、自身の先端をセトラの最奥へと突き上げた。
「…ふ…っ……あっ…ああぁ――っ」
「……っ」
一瞬セトラの体が跳ね上がり、膨れ上がっていた自身から互いの腹部に白濁した液を吐き出す。
それに呼応する様に、内部で締め上げられたクリストフ自身も、セトラの最奥に熱い塊を吐き出した。
受け止めたクリストフの熱を心地良く感じながら、セトラはゆっくりと目を閉じた。
くたりと力を失う体からゆっくりと自身を抜くと、セトラを優しく抱き締め、クリストフも目を瞑った。


目を覚ますと、キッチンで食事を作っているセトラの姿があった。どうやら熱は下がったらしい。
「あ、クリストフ。おはよう」
にこやかにエプロンをつけたまま、パタパタとクリストフのいるベッドに向かう。
クリストフはベッドから起き上がろうと体を起こすが、力の入らないせいかフラリと倒れ込んでしまう。
その様子に慌てて、セトラはクリストフの額を小さな手で触れた。
「僕の風邪、うつっちゃったみたいだね」
「セトラ!!お前…っ」
もう片方の手を頬にあて、言葉を遮るかの様に自分の唇をクリストフの唇に重ねた。
舌を侵入させて、口腔内を掻き回す様に舐めると、にこりと笑みを浮かべながら唇を離した。
「ほら、ちゃんと寝てないと。治らないでしょ?」
「っ……馬鹿」
自分がした事を頭で思い出しながら、ぼそりと呟く。
でも、たまにはこうして貰うのも悪くないと思い、キッチンに戻っていくセトラの背中を見つめた。
「セトラ」
「なぁに?」
目の前の作業をしたまま、クリストフの呼びかけに答える。
「……ありがとうな」
自分にしか聴こえない程小さな声で、クリストフは感謝の言葉を紡いだ。
それを解っていたかの様に、セトラも『うん』と声を返す。
今は只、こんなゆっくりした日々が続く様にと心の何処かで思いながら瞳を閉じた。



Fin



またベタな内容で書いてしまいました…。
『魔族は病気するのだろうか?』という疑問で書いてみた訳ですが、本当は病気しないのではと思ったり。
エロいのは最初から書く気だったけど、まさかこんな長くなるとは…Σ(゜Д゜)ガクガク
和やかで、それでいてエロく書くのは難しいなーと痛感しました(^^;

2005.11.04.

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